国際生物学オリンピック(IBO)は,理論問題と実験問題の2つの試験で競われます。この本は,2009年に筑波大学で開催された第20回つくば大会で実験問題の作成と実施に携わった筑波大学メンバーによる実験問題委員会が編集しました。生物学の好きな方,これからIBOに挑戦する方,さらにはそれらの若者を指導する立場の先生方に役立てていただければと考えています。
IBOの実験問題には,実際の動物をサンプルにするものから,コンピュータ上で行うものまで,さまざまな内容や技法の問題が出題されてきました。また,日本の高校生物ではなじみのない統計的な計算力が問われる場合もあります。どのような問題が出題されたかだけでなく,出題の意図や,その実験を通して生物学的な視点を養うことには,大きな意味があるはずです。
私たちが出題した2009年つくば大会の問題については,そのすべてを第1章「2009年日本大会 実技試験問題」に載せました。ここでは,出題者自身が問題の背景や,出題意図について語っています。私たちは,皆さんが想像できないほどの時間を使って練り上げ,生物学における本質的な事柄について実験を通して理解するための問題 ─ 問題というより作品を作り上げたつもりです。ぜひ,楽しんでください。
つくば大会以外の問題については,どうしても理解してほしい内容を含むものを第2章「Pick Up!過去問」に取り上げました。第3章「過去問Review」では,こんな問題も出題されるというマニアックなものや,これも知っておくとよいと思われるものを紹介しています。
実際の大会では,選手を引率してきた各国の審査員が一堂に会して,試験前日には問題を吟味し,実施翌日には採点結果の確認を行います。激しい議論が徹夜で行われることもある会議です。本来なら4つの大問は,それぞれ100点満点なのですが,これらの会議で変更が加えられたり,部分的に問題が削除されたりすることがあります。98点など,満点が端数になっている問題があるのは,多くの場合,そのためです。さらに,細かく読むと,用語や言い回しが,1冊の中で異なることにも気がつくと思います。編集の段階で,かなり統一したのですが,臨場感を残すために,実際に日本選手に配られた当時の問題文のままの言い回しを,あえて残したところもあります。
さて,過去問のうち,実験で出題されたサンプルが手に入らなかったものについては,正解が出せないので,解答欄にはその旨を記載して白紙としてあります。決して私たちが解答を導けなかったわけではないことを,冗談のようで恐縮ですが,書き添えます。
最後になりましたが,長い時間をかけ,実技試験問題集という,冊子にはしづらい内容を本として作り上げてくださったみみずく舎/医学評論社の皆様に感謝を申し上げます。
編集者 野村港二
岩本浩二