健康科学(health science)の進歩とともに社会と医療の接点も,従来の医療機関から,種々の場面に広がってきました。また,チーム医療の比重が増大し,看護学,保健学,歯学,薬学,社会福祉,臨床心理等,医療関連の職種もますます重要性を増してきています。
本書は,医学生を中心に,医療関連職種の方を対象にした社会医学・公衆衛生学の卒前教育のための教科書です。本書の内容は医師国家試験の出題基準とキーワードを網羅しており,いたずらに分量が増えるのを避けるため,卒前教育に不要な専門用語は注意深く排除しました。また,看護,介護,薬学などの他の医療職を目指す方にも対応しています。本書を理解することにより,国家試験対策にも十分に通用するはずです。
現在,健康科学は急速に変貌しつつあり,社会から要求される課題も日々変化しています。膨大な事実を単に暗記するのではなく,まずは総論を通読し基本的な考え方を理解して下さい。内容は公平・中立を心掛けましたが,これが社会医学・公衆衛生学という絶対的・固定的な考え方があるわけではありません。むしろ学会,行政,関連団体等で現在議論されており未解決な問題でも,私たちの考えを正直に記述するように心掛けました。読者自身が考えていくうちに,自然に,各課題の重要性に気づき,基本知識を身につけ,公衆衛生的な考え方を身につけるよう構成してあります。
目 的
この本は,以下の活動に役立つことを目的としています。
・個人を対象とした健康サービスを行う。
・健康サービスのシステムを作る。
・健康科学の研究を行う。
この本をマスターすることにより,①患者・利用者が1人の社会的存在であることを具体的にイメージでき,医療,地域,学校,企業における健康サービスに必要な基礎知識を理解する,②健康づくりと疾病コントロールのためのシステム全体を理解し,科学的な観点から健康科学に関する研究論文を読むことが可能になる,③医療提供体制,医療安全,医師需給,医療の標準化など現代的な課題について,何が問題なのか論点を明らかにし,データに基づき論理的に思考することが可能になる,ことが期待されます。
執筆者は皆,社会医学・公衆衛生学の研究者であり,教育者でもあります。新型コロナウイルス感染症の世界的大流行を経験し,現在ほど,この分野が社会的に大きな注目を集め,政治的な争点ともなっている時期はありません。私たちが日頃,この領域で感じているスリルと喜びを,この教科書で伝えることができたら幸いです。
2022年1月
著者を代表して
長谷川 友紀