本書『
国試カンファランス あなむね 彪之巻』は2013年11月に発行された
虎之巻,
龍之巻に続くあなむねシリーズの第3巻(
彪之巻)で,精神科,皮膚科,放射線科,麻酔科,整形外科,耳鼻咽喉科,眼科,泌尿器科の,いわゆる
マイナー科の領域を対象としています。
医師国家試験では,一般問題,臨床問題,長文問題の各形式で出題されています。このうち,臨床問題・長文問題では代表的な疾患について典型的な症候や経過をたどった症例が適切な画像とともに,コンパクトにまとめられて提示されています。
既出の臨床問題は通常,選択肢から読みはじめ,主文は正答を絞り込むためのキーワード探しに利用する,といった「国試対策」で対処できました。しかし,このような利用方法では,臨床推論,決断を求める最近の国試の出題傾向には対処できなくなりつつあります。
臨床推論・決断能力の習得に最も適しているのは
臨床実習での診療参加です。しかし,学生時代の限られた時間に各領域で診療を経験する十分な機会を得るのは困難です。これを補う学習活動が
ケースカンファランスで,洗練された症例報告に基づく討論は臨床推論のトレーニング方法として極めて効果的です。ケースカンファランスは臨床実習前の問題発見型学習,臨床実習での症例発表,各診療科での症例検討会,研究会,専門雑誌などで多用されています。
国試の
臨床問題・長文問題の主文は,見方を変えれば,医学生レベルでの
理想的なケースカンファランスの材料でもあります。これを医学生の臨床推論能力,決断能力の習得に利用しようとするのが本書のねらいです。
本書は,過去に出題・公開された医師国家試験の臨床問題・長文問題の症例を選んで,まず ①
アナムネ(主文の病歴および身体診察所見)を読み解いて,②
患者を診る,すなわち「この患者」の具体的イメージから患者の苦痛とその医学的意味を把握していくつかの診断仮説を構築し,次いで ③
検査所見・画像所見から現時点でこの患者に起きている
病態を推定,最後に ④
次にどうする?,すなわち診断確定ならば治療法選択あるいは治療法選択のための検査,診断未確定ならば確定診断のための検査,など「この患者」に
最優先すべき「次の手」を考察する,というステップで解説しました。解説のレベルは医学部高学年に焦点を当ててありますが,臨床実習前の4年生にも読んでもらえるよう,丁寧に記載してあります。
本書が医学部学生諸君の効果的で効率的な臨床推論能力の習得の一助となることを切に願っています。
2014年5月
安田 幸雄
(金沢医科大学名誉教授)