私が国家試験を受けたのは今から四半世紀ほど前のことになる。受験直後,学生代表としてある雑誌の対談に出た時の結論は,これからの国家試験は実践臨床へとシフトしていき,長期的には米国の国家試験を模し,実習での経験が重要になるだろうというものだった。それから幾たびもの改革を経て,長文問題や常識問題の導入を始めとして,多選択肢なども取り入れられ,問題構成や時間割といった枠組みすら当時とはがらりと変わってしまった。しかしながら,毎年の傾向分析の結論,「今後はより臨床に即した実習重視の出題にシフトしていくだろう」というのだけは千年一律の感が否めない。実践の学問である医学をペーパー試験で判断しようということ自体がそもそもの矛盾であるのは言うまでもない。この迷宮から抜け出すためには,バーチャルリアリティー技術の更なる進化が必要なのかもしれないが,医学部に合格したうちの8割から9割が通るという数字の上での事実は,今も昔も何ら変わるところがないだろう。率からすれば,医師国家試験に通ることは,医学部に合格するよりもはるかに易しい。確かに,医学の進歩によって問題自体難しくなっていると言えなくもないが,それは単に時代性だけのことで,基本的には大学入試のように「落とす」試験ではなく「資格を与える=通す」試験なのである。
「通す試験」の中で重要なのは,過去の分析をしっかり行い,苦手分野や知識の穴を作らないことであり,これは他の資格試験においても変わるところがない。学生指導の歳月を重ねる中,合格する生徒とそうでない生徒の差異は,既出問題をどれだけしっかりやっているかの差でしかないという思いをますます強くしている。国家試験に通るコツを一つと求められたら,いささかの迷いもなく既出問題の繰り返しと断言できる。その証拠に,過去問を丹念に見て行けば,単年度の問題の中にさえ,問われている知識に重複が見られることに気付くはずである。また,国家試験合格に必要な知識と医学書の膨大な知識とがイコールではないことも分かるだろう。国家試験に通るための正解は本物の国家試験に取り組む中でしか得られないと肝に銘じるべきである。高年生になったらまずは本書を購入し,収録されている一つ一つの問題を丁寧にやり,周辺知識を整理していくことを勧めるゆえんである。
医学評論社は医師国家試験問題集を古くから手掛けている出版社であり,代々の執筆者によってその高いクオリティーが維持されて来た。本年度の執筆者達もみなその道のスペシャリストであり,かゆい所に手の届く懇切丁寧な解説がなされている。その中には,これからの医療を担う後輩たちへの熱い想いが込められている。その思いは国家試験の出題者達のそれとも重なるだろう。国家試験は,試験であるより前に,「医師として身につけておかなくてはならない知識」のガイドラインなのである。単なる試験対策ではなく正統な知識を身につけるのだという意気込みで,できたて極上の料理を楽しむように,密度の濃い本書を,充分に堪能してもらいたい。
医師になるのだと強く信じて進めば,どんな苦労も必ずや乗り越えられるだろうし,到達する先は明るい未来のはずである。頑張れ!
2013年4月