108という数字は,仏教において煩悩の数であり,数珠の数であり,除夜の鐘が突かれる回数を示しています。筆者はいつも108という数字を目にするたび,たくさん勉強した者がよい結果を得るのだ,という因果応報めいた思いが頭をよぎります。
このたび,CBTと医師国家試験に関わる本を編集する機会をいただき,テーマをどうするか編集部で相談いたしました。編集会議で用意された資料は,『平成25年版医師国家試験出題基準』(ガイドライン),「CBTこあかり」シリーズや〈SUCCESS〉シリーズの問題集など,過去に出版された医学関係の書籍です。その中で,出題基準のプリントに目が行きました。そこには,必修の基本的事項が掲載されています。大項目に主要疾患・症候群があり,中項目には臓器別,そして小項目に疾患名が羅列されています。いわば国が定めた,最低限押さえておくべき病気のリストです。この部分からは,医師国家試験で2連問が10症例,出題されます。ここは配点が高く,最も重要な病気のリストです。
筆者を含め集まった7人の全会一致で,テーマは「
国試必修疾患=国が定めた病気リスト」に決まりました。CBT受験者には
今後のよい到達目標となりますし,医師国家試験受験生には
必修レベルの最終確認が可能です。したがって,対象としている読者はCBTを控えた4年生,病棟実習をしている5年生,そして医師国家試験を控えた6年生・既卒生です。もしかすると,医学教育に関心をもっていらっしゃる方にも有益かもしれません。医師に求められる基本的知識はどの程度か,実際の問題を解きながら手早く「国が定めた病気リスト」を確認することができます。どのレベルの読者にも有用であることを願い,筆者が掲載問題を選定し,問題や解説はすっきりとさせました。さらに理解しておくべきポイントは,小項目ごとに書き下ろしました(「
この項目のポイント」および「
Dr.李's COMMENT」)。ちなみに,主要疾患・症候群の小項目は合計108です。平成21年版では小項目の合計が111でしたが,平成25年版では整理・統合されて合計108となっています。
「国が定めた病気リスト108」。この言葉からは,試験を間近にして除夜の鐘を聞きながら,勉強に励む受験生の姿を想像せずにはいられません。年末年始に,総仕上げとして本書を解く学生は大丈夫でしょう。しかし,藁にもすがる思いで本書に向き合い,悲壮な心持ちで勉強に取り組む学生もいらっしゃるかもしれません。筆者はかつて,後者の切羽詰まった学生でした。
この本だけで国試対策はすべて大丈夫だ,と断言するつもりは毛頭ありません。そもそも,医学の勉強は膨大であり,甘いものではないからです。だからといって,やみくもに教科書を丸暗記しようとしても,逆効果です。気持ちが空回りしても,焦るばかりでよい結果は期待できません。ギリギリでも
CBTはクリアしたい,
病棟実習にアクセントをつけたい,せめて
必修だけは何とかしたい。そのような方にこそ,本書がお役に立ちます。108の煩悩を消し去るつもりで紙と鉛筆を用意して,じっくり腰を据えて問題を解いてみてください。皆さんのそれぞれの目標に向けて,たとえわずかでも一歩前進する力添えになれたなら,編集者一同,これ以上の喜びはありません。
2012年9月
李 権二