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第120回医師国家試験 総評

2026/02/24

国試情報

第118回総評第119回総評

 2026年2月7日(土)、8日(日)の2日間にわたり、第120回医師国家試験が実施されました。全国に大寒波が襲う中、受験生の皆さんは例年以上に過酷な条件での試験になったことと思います。日々の努力の成果をいかんなく発揮できた人、やや悔いの残る結果になってしまった人など、様々かと思いますが、まずはこれまでの疲れを癒やしながら、ゆっくりと羽を伸ばしてほしいと思います。

 一方で、第121回医師国家試験に向けた準備はすでに始まっています。以下に、第120回医師国家試験の総評を記します。来年以降に受験を控える皆さんはぜひ熟読して、来たるべき試験に備えてください。医師国家試験は常に進化しています。5年前にトレンドだった出題が今となっては既に時代遅れ、という現象が日常的に起こるのが医師国家試験です。まずは正しく敵を知り、明日からの学習に生かしてください。

問題形式

各ブロックの構成、問題数は昨年からの変化はない。



総評

 全400問のセットとしての難易度や、出題された知識の幅や深さ、という点において、第120回は第119回と極めて類似した出題であった。第119回の総評において、「セットとしての完成度は極めて高く、現代の医師国家試験の1つの完成形を示した」と総括したが、第120回はこの問題構成がそのまま維持された形である。あくまで推測の域を出ないが、「第119回と同様の作問を行えば、医師国家試験として十分に機能する」という出題委員の分析があったのかもしれない。実際に問題を解いた受験生の体感難易度も、第120回は第119回とほぼ同等であったと予想される。
 もちろん、「第119回と類似した出題」というのは、「第119回の問題で問われた知識を使えば解ける」という意味では全くない。何がどのように類似していたのか、という点を明らかにするため、一般臨床の300問について次のような分析を行った。

 以下の表は、一般臨床の各問題を編集部で3つにグループ分けし、各グループに含まれる問題数をリストアップしたものである。比較のため、第118回第119回の結果を横に並べて記載している。


 この分類は、あくまで「過去問の情報のみからその問題の正解を導けるか?」という点から見た分析であり、問題の難易度とは直接関係しない。例えば、その場で「常識で」考えれば解けるような問題であっても、過去問に出題がなければグループ3に分類している(例 C25:成人に対するACP)。

 前回の第119回の総評において、受験生の感じる「難化/易化」の正体について述べた。具体的には、「セットとしての難易度」は、「過去問と異なる新しい知識を問う問題がどれほど多く出題されたか」とは関係がないことを指摘した。実際、グループ3:「過去問のみでは正解が導けない、全くの新作問題」の問題数は、第118回から第120回まで通して見ても大きく変化していない(むしろ徐々に減少傾向にすらある)。
 重要なのは、医師国家試験の「セットとしての難易度」は、グループ1とグループ2の問題数のバランスによって決まる、ということである。グループ1:「過去問で問われた知識をそのまま使えば解ける問題(プール問題)」が多く出題されると、受験生は比較的「解きやすいセット」と感じやすい。一方、グループ2:「過去問の問題文や、正解肢以外の選択肢を吟味しておけば正解できる問題」が増えた年は、受験生はしばしば「過去問と同じ見た目の問題が少なく、答えに自信が持てないセット」という感覚に陥りやすい。100%の確証が持てない問題が並ぶセットを解き進めていくうちに、受験生の不安が徐々に増していくのは当然であるし、試験が終わった後に試験中の心理状態を一言でまとめようとすると、「難化」という言葉がぴったりと当てはまるのだろう。

 第118回では約5割だったグループ1の問題数は、第119回で4割弱まで減少し、逆にグループ2の問題は大きく増加した。そして、第120回においても、この出題構成がそのまま維持された。「過去問演習で馴染みがある問題が3問に1問程度しか登場しない」と考えると、受験生の精神的重圧は想像に難くない。
 しかし、裏を返すと、一般臨床の300問のうち200問以上は、過去問にヒントが散りばめられていた、ということもまた事実である。過去問の各々の問題に関して、その選択肢や問題文を含めて丁寧な吟味・検討を行っていれば、選択肢に悩むことはあったにせよ、結果的に正解にたどり着ける問題も多かった。また、近年の医師国家試験では「定番」の出題パターンになっているが、過去問の問題文や誤答選択肢で登場した検査や治療が、翌年以降の国試では正面から問われるという作問も、第120回では健在であった。これらの意味において、第120回の出題を一言でまとめるなら、「過去問をベースにした正統な進化」であったと言える。
 過去問の内容を十分に理解し、「どんな方向から問われても、自身の知識をその場で駆使して答えられる」状態まで仕上げていた受験生にとっては、第120回はこれまでの国試と同様に高得点を狙えるセットであっただろう。一方で、過去問の正解肢を選ぶだけの短絡的な学習にとどまった受験生にとっては、合格安全圏まで到達するのは容易ではなかったと思われる。既に各所で指摘されており、多くの受験生は十分に理解していることと承知しているが、「問題文とすべての選択肢に対する漏れのない知識を身につける」ことの重要性を改めて強調したい。出題委員が受験生に要求したものは、第120回と第119回で驚くほど同一であった。

 全400問を見渡すと、難問・奇問の類や、作問者の「出題意図」まで踏み込んで推測しないと正解にたどり着けない問題、専門医でも意見が割れる問題も散見された。そして、出題された時点では「難問・捨て問」とされた問題であっても、翌年以降の受験生にとっては「過去問で既出の知識」となり、記憶・習得すべき内容としてリストアップされてしまう、という負のサイクルは依然として存在している(国試のインフレ化)。しかし、上で述べたように、第120回の出題の主軸はあくまで「過去問の知識をどの方向から問うか」という切り口の変化であった。新作問題についても、専門医試験で要求されるような細分化された知識へ踏み込むのではなく、多くは「医学部卒業時点で押さえておくべき基本的な知識は何か」という軸に沿って作問されていた。かつての医師国家試験にしばしば見られた、難問が翌年の標準知識となり、さらにその先の難問が積み上がるという雪だるま式のインフレとは、明らかに性質が異なる出題であったと言える。

問題構成

・第118〜第120回の臓器別の出題数を以下に示す。第120回はマイナー科、特に精神科の出題が少なく産科・婦人科が増加した。また循環器や消化管は増加傾向である。しかし、いずれも年度による誤差の範疇であろう。


・「令和6年版医師国家試験出題基準」(第118回より適用)から、新たに「レベル分類」が導入された。以下に示すように、レベルaは「頻出疾患・緊急疾患」、レベルbは「やや頻度が低いが経験すべき疾患」、レベルcは「概念を説明できれば良い疾患」、という分類となっている。


・第120回のレベル分類は下記の通りであった。第120回は第119回と同様に、大半をレベルaとレベルbの疾患が占めている。とはいえ、結局はレベル分類に関わらず、記載されているすべての疾患が出題範囲である、という事実に変わりはない。
・また、病態生理に基づく疾患概念と、レベル分類に基づく疾患区分は厳密には一致しない。例えば、A57(間質性膀胱炎)は、レベル分類上は「膀胱炎」の下位概念として、レベルaに分類されている。

必修

・必修問題は第119回と比較すると取り組みやすい出題であった。以下に第118〜120回の正答率分布を示す。大半の受験生が自信を持って正解できる問題(正答率95%以上)が6割以上を占めており、必修全体として80%の得点を確保するのは難しくなかったと思われる。

B25(基礎代謝量に影響を与える因子)、E17(抜糸の手技)など、一般問題(1点/問)では新規の知識を要求する出題が散見されたが、これも例年通りの傾向である。必修の一般問題は、出題される知識の幅が広く、過去問との関連も乏しい。医学に関連する知識であれば何でも出題されうる、と考えた方が健全である。そのため、一般臨床と比較して出題内容の予想が難しいこともまた事実である。解けない問題があっても必要以上に落胆せずに、あくまで1問1点と割り切ることが重要である。
・臨床問題(3点/問)は比較的平易な出題が多かったものの、判断に迷うような問題もみられた。B41(COPDの身体所見)やE28(PSAGN[溶連菌感染後急性糸球体腎炎]で制限すべき電解質)などは好例で、必修ブロック特有の「間違えてはいけない」というプレッシャーのもと、必要以上に悩んでしまった受験生も多かったかもしれない。
・試験中、必修の重圧と戦う受験生の心中は察するに余りある。「絶対に合っているという確証がない問題を仮に全部間違っていたとすると○点……」という計算をした受験生は1人や2人ではないだろう。「80%に十分届く」という仕上がりで満足せず、「いかなる問題が出題されても、必ず80%を超える」という完成度まで実力を高めておくべきである。

一般臨床―各論

・受験生の正答率をもとに分析すると、第120回では内科/外科およびマイナー科は例年並みであった一方で、小児科/産婦人科の難化が目立った。公衆衛生では、例年通り新規の知識を要求する出題が目立ったが、極端な難問は少なかった。しかし、難易度は年によって様々であり、「たまたま第120回の難易度はそうだった」というだけで、それに一喜一憂するべきではないことは言うまでもない。

・内科/外科において、数年前(第112〜116回頃)の医師国家試験では、状況に応じた臨床判断を行わせる問題が「流行り」であった。単なる医学知識を問うのではなく、「現時点での患者の状態を把握させた上で、次に行う治療方針を決める」という趣旨の出題である。第120回でも、この流れを踏襲した問題は出題されているが、以前と比較して出題数は減少傾向である。例を1つ挙げると、D60は細菌性肺炎の治療効果判定であり、臨床的には極めて「よくある」シチュエーションであった(本問の正答率は約73%)。
・また、第119回の総評において、「疾患のステージやサブタイプごとの詳細な治療方針を問う」という出題方針が明確になったことを大きな特徴として挙げた。第120回でも同様の傾向が続くかと思われたが、第119回と比較するとその勢いは沈静化し、出題数は限定的な範囲にとどまった。
・例えばD62は、免疫関連有害事象(irAE)による甲状腺炎の対応を問う問題であり、まさに「病態の重症度に応じた治療方針を問う」出題であった。本問のポイントは「症候性の甲状腺機能低下症ではあるものの、全身状態は安定しており(CTCAE[有害事象共通用語基準]ではグレード2相当)、免疫チェックポイント阻害薬は継続可能である」という点を理解している必要があったことである。問題文には他にも情報が与えられており、受験生が正解肢を選びやすいような出題者の工夫はみられたものの、内容自体は専門医レベルである。仮に内科専門医試験に出題されたとしても、悪性腫瘍を診療していない内科医にとっては難しい出題だったと予想される(正答率は約48%)。
・繰り返しになるが、これらの出題は全体としては少数であった。第119回の傾向から、「専門医試験に近い、細分化された知識を問う問題が指数関数的に増加するのではないか」ということが懸念されたが、第120回では多くの問題が、あくまで医学生が理解するべき「標準治療の枠組み」を問うレベルに抑えられていた。

・また、近年の治療薬の発展に伴い、様々な生物学的製剤が開発され、実臨床で使用できるようになっている。これらは専門医であってもキャッチアップがしばしば困難な領域であり、学生にとってはなおさらである。しかし、第120回の出題を見る限り、個々の薬剤名(○○マブ、等)の暗記を正面から要求する問題は出題されていない。C63(MS[多発性硬化症]の再発予防の標的となる細胞)、C66(成人Still病の治療標的となるサイトカイン)はいずれも、薬剤名ではなく「どの細胞・分子を標的とするか」という機序レベルの理解を問う出題であった。裏を返せば、生物学的製剤の名称を闇雲に暗記するよりも、疾患ごとの病態と治療標的の対応関係を整理することが、現時点では有効な対策であり、出題委員の意図にも沿うものであると考えられる。
・過去問と全く同一の問題が再出題された点も例年通りである。例えばA30(出血が持続する血気胸への対応)は109D31と、F71-72(抗うつ薬によるQT延長)は112F69-70と同一である。正答率が低い問題は、同一の問題がそのまま出題されうることも念頭において、過去問演習を進めることが望ましい。

・マイナー科は概ね例年並みの難易度であったが、過去問と異なる切り口での出題が一部にみられた。A39(菌状息肉症)やA57(間質性膀胱炎)は、本格的な臨床問題としての出題は今回が初であり、自信を持って正解肢を選べた受験生は少数であったものと思われる。D51(基底細胞癌)については、臨床経過とダーモスコピー所見こそ108I61で既出であるものの、すでに10年以上前の出題であり、試験場では提示画像を一から解釈しようと悩んでしまった受験生もいたのではないだろうか。
・過去問で出題された画像の使い回しは、少数ながら今回も見られている。D34(口腔カンジダ症の診断)は111I72と同一の画像であった。もっとも、試験中に「この画像は過去問と同一である」と気付くことは現実的ではないし、その必要もない。重要なのは、古い過去問であっても出題者側にはプール画像としてストックされているという事実である。そのため、各疾患の典型的な所見を画像として頭にイメージできるようにすることが有効な対策になるだろう。特にマイナー科は画像の使い回しが多く、過去には20年以上前の画像が再出題された事例もある。過去問演習の際には十分な注意を払っておきたい。

・小児科および産婦人科は、例年、専門医レベルの知識を要求する難問が出題され、翌年以降の受験生の負担を増やす一因になっている。本年は特にその傾向が顕著であり、A45(思春期早発症の診断)、C57(器質的異常のない不妊症への対応)、C67(新生児の保温方法)、D7(川崎病と猩紅熱の鑑別)、F44(羊水過多への対応)などは、専門医レベルの知識を要求される出題である。これらの問題が翌年以降の「既出知識」として積み上がっていく以上、受験生がこの2科目に割くべき学習リソースは年々増加の一途をたどっている。国試対策全体の時間配分を考える上でも、受験生にとって無視できない負担になりつつある。
・産婦人科では、不妊治療・生殖医療に関する出題の増加が一つのトレンドとなっている。従来の産婦人科の出題は産科や婦人科腫瘍が中心であったが、2022年に体外受精や顕微授精が保険適用となったことを背景に、不妊症の原因検索や生殖補助医療の具体的な手順に踏み込んだ出題が目立つようになってきた。今後もこの傾向が続く可能性は高い。過去問の少ない領域ではあるものの、生殖医療の基本的な流れについては一通り整理しておくことが望ましい。

・公衆衛生は概ね例年通りの出題であるが、「健康日本21(第三次)」や「第8次医療計画」といった医療制度の構造的な変化や、統計データの更新がある以上、過去問にない新規の知識を問う出題が必然的に生じる。C9(高齢者世帯のうち単独世帯の割合)やF6(人工妊娠中絶)は、近年のトレンドを反映した問題であり、過去問演習だけでは手が届きにくい部分であろう。

一般臨床―データからの分析

・一般臨床の出題傾向について、ここではさらに細かい分析を加えていく。冒頭でも述べたように、第120回の問題構成は、第119回を踏襲したものである。ここでは、第118〜120回を比較して、「各グループに含まれる問題の正答率の分布」をさらに細かく見てみよう。結果は以下である。

・現代の医師国家試験においては、簡単な問題の正答率は100%に限りなく近くなるため、分類の基準となる正答率は「95%」、「85%」、「70%」、「50%」とした。受験生全体のレベル向上を考えると、過去問の類題が出題されたとして、その正答率が70%を下回ることは極めて稀である。つまり、合否を分けるのは「70-85%」の問題を可能な限り正解すること、そして「85-95%」の問題を絶対に失点しないことである。

・「70-85%」および「85-95%」の問題、すなわち「解けるはずだが確実とは言い切れない」範囲に含まれる問題の割合をグループ別にみると、第120回ではいずれのグループも45%程度とほぼ同水準である。第118回・第119回では、この「70-95%」に入る問題の割合がグループ2で特に多く、グループ2の出来不出来が合否を左右する「勝負のグループ」であった。第120回ではこの偏りが解消され、合否を分ける問題がグループ間に均等に分散した構図となっている。すなわち、「新作問題が解けなかったから得点が伸びなかった」という説明は成立しにくい。合格ラインに乗せるためには、グループ1およびグループ2を盤石に固めた上で、グループ3でも一定の得点を積み上げる必要があった。

・今回のデータ分析で最も注目したいのは、グループ1の正答率である。グループ1は、基本的に過去問と同一の知識・内容を問う出題(プール問題)である。であれば、その正答率は軒並み95%を超えていてもおかしくないはずだが、実際には70-95%のレンジに相当数の問題が分布している。なぜ、「見たことがあるはずの問題」でこれだけの取りこぼしが起きるのか。
・この疑問に答えるには、現在の受験生がどのように過去問を処理しているかを理解する必要がある。医師国家試験の過去問ストックは年を追うごとに蓄積を続け、現在では10,000問を遥かに超えて膨大な量に達している。かつて過去問の総数が限られていた時代には、受験生が1問1問の問題文や選択肢の配置まで自然と記憶し、本番で「この問題は知っている」と即座に処理できる場面もあっただろう。しかし現在、そのような勉強法はもはや現実的ではない。受験生は個々の問題を丸ごと覚えるのではなく、解法のエッセンスを抽出して体系的に記憶するほかなく、実際にそのような学習法が主流であり王道となっている。もちろん、直近数年の過去問であれば、繰り返し演習する中で問題文そのものを認識している受験生も多い。しかし、出題年が古くなるほど問題単位の記憶は薄れ、エッセンス抽出型の処理に移行せざるを得ない。
・この学習法のもとでは、プール問題であっても、受験生にとっての解き方は新作問題と本質的に変わらない。自分の持っている知識を使って、その場で答えを組み立てている以上、正答率を左右するのは「その問題が過去に出題されたかどうか」ではなく、「問われている内容をどれだけ正確に理解しているか」である。それゆえ、過去に繰り返し出題された知識は高い正答率を示す一方、学習上の盲点になりやすいテーマや周辺的な知識は、たとえ過去問と一語一句同じ問題文であっても正答率が伸び悩む。
・例えばA14(Basedow病と無痛性甲状腺炎に共通する所見)は103I37と問題文および正解肢が同一の出題だが、受験生の正解率はわずかに約76%であった。また、D29(非結核性抗酸菌症の治療薬)は104D50と同一の趣旨の問題だが、正答率は約61%と、こちらも多くの受験生が苦戦した。

【120D29】

【104D50】

・現代の医師国家試験においては、試験対策のための教材も十分に成熟し、受験生全体の学力も既にプラトーに達している。どの知識が定着しやすく、どの知識が抜けやすいかというパターンは、受験生が変わっても大きくは変わらない。実際、第119回と第120回でグループ1の正答率分布はほぼ同一であった。つまり、プール問題の正答率が示しているのは「過去問として見たことがあるかどうか」ではなく、「その知識が受験生集団にどれだけ定着しているか」なのである。

・グループ2(過去問にヒントがある問題)について、第118回・第119回ではこのグループに「合否を分ける問題」が集中していた。第120回ではこの偏りは解消されたが、グループ2が過去問に対する「解像度の差」を最も強く反映することに変わりはない。過去問の問題文や細かい状況設定を読み飛ばしていたり、正解選択肢の内容しか覚えていなかったりすると、このグループの問題で大きく遅れを取ることになる。
・グループ2の問題の例として、上で述べたポイントが露骨に問われた問題を1つ挙げておこう。A11(機能性月経困難症)は難問であり、多くの受験生が苦戦した(正答率約36%)。一方、過去問に目を向けると、114A32では、機能性月経困難症に対してまずNSAIDsが処方されている。これは単なる鎮痛目的ではなく、月経困難症の病態がプロスタグランディンの過剰産生に起因しており、その合成阻害薬が病因に即した治療だからである。つまりA11は、114A32における「治療選択の根拠」をそのまま問うた問題に過ぎない。114A32を解いたときに「なぜNSAIDsなのか」を一歩踏み込んで考えていれば正解できたはずだが、多くの受験生にとっては盲点になったようである。

【120A11】

【114A32】

A59(SLEに対する初期治療薬)では、ヒドロキシクロロキンが正解であった。直近の119F44で治療薬として初めて問題文中に登場しており、多くの受験生が今回の出題を予想していたと思われる。しかし、実際に臨床問題の中で他の免疫抑制薬と並んで選択肢に置かれたとき、自信を持ってこの選択肢を選べるかはまた別の話である。結果として正答率は約51%にとどまり、「知っていたが選びきれなかった」受験生が相当数いたことがうかがえる。

【120A59】

【119F44】

・この問題からも明らかなように、「過去問の問題文と正解肢のペアを機械的に覚える」という勉強では、グループ2の問題を解き切ることは不可能である。この壁を超えるためには、過去問をいかに丁寧に解くか、という点を常に意識しなければならない。正解肢、不正解肢を含めて、すべての選択肢に対する漏れのない知識を身につけることが最も重要である。余力のある受験生は、次年度以降に出題が予想される内容について、AIなどを活用しながら周辺知識を整理してみると理解が深まるだろう。例えば、上記のSLEの問題であれば、
1. 挙児希望のあるSLE患者には、ミコフェノール酸モフェチルは使用禁忌であること
2. クロロキンは妊娠中も継続可能だが、網膜症のリスクがあり定期的な眼科受診が必要なこと
3. SLEに対する生物学的製剤は、B細胞の成熟抑制や、IFNシグナル遮断が主な作用機序であること
などが確認できれば、次年度以降の対策としても心強いだろう。

・最後に、第120回では、出題委員による過去問の再検討が行われた結果、過去問での見解と異なる内容が正解となった問題が存在した点にも触れておきたい。A2(尿路結石のリスク因子)では、過去問では「糖尿病は尿路結石のリスクにはならない」という事実を問うているが(例 105D18)、疫学的知見の変更に伴い、今回の出題では「関連がある」という選択肢が正解となった。また、公衆衛生では、F7(高齢者の要介護の原因)が106B27と同種の出題でありながら、疫学データの更新に伴い正答肢が変化している。出題頻度は決して多くないが、「過去問の正解=現在の正解」とは限らないという意識を持っておくことは、今後の受験生にとっても重要な教訓になるだろう。

禁忌

・全体として、過去問と明らかに異なる禁忌肢の出題はなかった。多くは過去に繰り返し強調され対策されてきた内容であった。
・唯一の例外はD33(急性期脳梗塞における治療)である。本問では、直近の消化管出血および手術の既往が問題文中に明示されており、これらはt-PAの投与禁忌に該当する。実臨床であれば当然t-PAは回避すべき状況だが、本問の選択肢構成は事実上「t-PAか血栓回収療法か」の二者択一であり、t-PAを選ぶ受験生が一定数いることは出題者も織り込んでいたと思われる。実際にこれが禁忌判定となるかどうかは注目に値する。

英語問題

・第120回ではやや出題数が多かったものの、問われた内容自体は既出の知識の範囲内であり、「英語問題で、なおかつ新規事項を問う」という出題はなかった。あくまで医学知識を問う試験である以上、医学英語はその構成要素の一つとして位置づけるべきであり、過去問を中心に頻出の医学英語を確認しておけば十分だろう。

総括と今後の展望

・本稿で述べてきたように、医師国家試験の過去問は既に膨大な量に達している。その知識を網羅的かつ効率的に習得するためには、1問1問を丸ごと覚えるのではなく、問題のエッセンスを抽出して体系的に理解・記憶するほかない。これは正しい方向への進化だが、その帰結として、本番で「この問題は見たことがある」という既視感で得点を稼げる場面はほとんどなくなった。かつてであれば、準備が万全でなかった受験生でも、たまたま覚えていた過去問が出題されてボーダーラインを越えるという幸運があり得たかもしれない。しかし現在の医師国家試験では、そうした番狂わせが起こる余地はほとんどなくなっている。
・第119回は、過去問に様々なマイナーチェンジを加えることで、資格試験として十分に機能するセットになることが見事に実証された出題であった。第120回は、まさにこの方向性を踏襲した問題構成であり、過去問の問題文中に登場していた検査や治療、あるいは誤答選択肢にとどまっていた知識が、今度は正面から問われるという流れが完全に定着している。加えて、本稿で分析したように、膨大な過去問ストックの中から受験生の盲点になりやすい問題を選んで再出題するだけでも、十分に得点差がつくという知見は、出題委員にとっても新たな手応えだったのではないだろうか。
・第118回でプール問題中心の構成を試み、第119回でマイナーチェンジによる難易度調整の手法を確立し、第120回ではその路線を踏襲しつつ合否を分ける問題がグループ間に均等に分散した。この3回の流れを振り返ると、出題委員が受験生に問う知識の本質を変えることなく、試験の難易度を制御する方法論を着実に磨いてきたことが見えてくる。受験生に求められるのは、この方向性を理解した上で、過去問の一つ一つを丁寧に掘り下げ、抜けのない知識を積み上げていくことだろう。それは現行の試験形式においてはもちろん、仮に将来、医師国家試験の非公開化、CBT化が実現したとしても、変わることのない試験対策の本質であると考えている。