■第38回社会福祉士国家試験 総評
新カリキュラムにおける2回目の試験でした。前回に引き続き,出題形式について過去の試験と異なるパターンがいくつも見られました。まずは全体を振り返りたいと思います。

■出題傾向について
①問題や選択肢の表現の難化
過去12-13年ほどの国家試験の問題文は,表記について「誰が読んでも同じ認識ができること」を意識したような,どちらかというと平易な言い回しを用いる傾向がみられました(模擬試験においても同様に,わかりにくい表現を避けるよう意識して作成しておりました)。今回の試験においては,言い回しを難化させることで,どれが正答なのかを迷わせるような意図の問題が増えたように感じます。
例)問題1選択肢1 定頸(ていけい) → これまでの試験であれば「首が座る」と表記
第25回試験まで遡りますと,今回の試験のように,用語の理解に加えて読解力を求められるような問題が当然のように出題されておりました。ですが,第25回は合格基準点が72 / 150点(正答率約48%),18.8%という最も低い合格率を叩き出し,涙を飲んだ受験生が多かった年です。
そこから「難易度の平準化」が意識され,上記の「誰が読んでもわかりやすい言い回し」を意識した傾向に変わっていったように記憶しております。
「わかりやすい言い回し」のデメリットとしては,合格基準点が大幅に上がってしまうこと(第30回99点,第34回105点)と,解釈が多数になり得るため,結果的に全員正解の問題が出てしまうこと(第35回問題76トランスディシプリナリモデルなど)があり,未だに難易度の平準化がされたとはいえない印象です。なお,「定頸」については医学や看護等では使用される言葉であるため,「共通言語の知識」としての出題意図があると考えれば,今回の国試で覚えておくとよいでしょう。
そこでもう1つ,今回の試験問題で意識的に用いられた手法がありました。
②「人名」と「用語の定義」のセット出題
これまでもセットで出題されているものはありましたが,それらは①同じ用語の定義を複数の学者がしている場合,もしくは②定義と人名をセットで学ぶことが通例になっているものでした。
例①:問題52 バンクーミケルセン,ヴォルフェンスベルガー,ニィリエのノーマライゼーション
例②:問題16 エスピンーアンデルセンの福祉国家レジーム論
今回の試験においては,人名とセットで出題されることにより,「この人物がどのように定義をしたか,正確に絞りきれない」と動揺した受験生も多かったように思います。
例:問題23 ロッシらによる福祉サービスのプログラム評価
問題71 ハートマンによって開発されたエコマップ
これらは,出典を明確にし,解釈の違いによる全員正解問題が出ることを防ぐ目的もあるかと思いますが,テキストにも出てこないような人名が多数登場したことは大きな衝撃であり,これまでの出題傾向に沿って学んできた受験生にとっては,気持ちが落ち込む要素の1つになったと思われます。
③全体正解率が低いことを見越した「難易度調整問題」の増加
例年,試験の難易度を調整するために,模試高得点層でも解けない問題(正答の候補が3つ以上残る問題)が意図的に出題されている傾向があります。第37回試験では20問(全体の約15%)でしたが,今回は40問(全体の約31%)となりました。合格基準点がそのまま20点下がるとは考えづらいですが,第37回と同様に55-60%程度の合格率になるように合格基準点を設定するのであれば,50点前後になってもおかしくない難しさだったのではないかと感じています。現状では確実な点数はお伝えできませんので,国の結果を待ちましょう。
④事例問題の量について
第37回試験では事例問題は48問,今回も49問という結果になりました。ただし,一般問題の形式をとった事例問題や事例と表記のない事例問題(問題8,12,56,79,81,111)を含めると計55問でした。まだデータが少ないですが,事例数が大幅に減ることは考えづらいため,「4割弱は事例問題」という意識で対策を講じる必要性を感じます。
⑤「2つ選べ」問題の量について
第38回国試における「正しい/適切なものを2つ選びなさい」という問題は,計48問でした。前回国試の32問から大幅増,かつ全体数の37%が2択問題になったことになります。事例問題だけでなく,注意深く問題を読まねばならない(文字数の多い)一般問題での2択も増え,これらは学習した知識によって絞り込むことが困難な問題も含まれていました。結果として難化の理由の一端として捉えられた可能性が高いと考えられます。2つの正解肢に近づくためには,残り3つの選択肢を根拠を持って消去する力も求められます。実際に問題を解いていくアウトプット学習の局面で「根拠をもって正誤判断する力」を養う視点からの講義,あるいは模擬試験の内容の検討などの対策が必要であると感じました。
■科目別の特徴
【共通科目】
■医学概論(事例3問/到達予想ライン3点)
旧カリキュラムにおいては,高齢者や障害者と関わる際に必要となる医学知識を意識して出題されていたように感じます。今回は,先述したように問題1から「定頸(ていけい)」という聞き慣れない用語が出題されるなど,緊張しながら問題用紙を開いた受験生にとって,出鼻をくじかれるような問題構成だったのではないでしょうか。「社会福祉士の専門性」という視点で,問題6のような医学に特化した事例問題も解けるようなレベルの受験対策は大変難しく,現実的ではないと感じます。ただし,権利擁護や刑事司法にも言えることですが,専門的な知識がないと全く見当もつかない問題が1問でもあると,科目全体が難しいという評価になりがちなところは注意すべき点です。乳幼児期の発達,専門職の役割,疾病の予防など,繰り返し出題されている内容についてしっかり対策し,着実に3-4点を積み上げることが大切です。
■心理学と心理的支援(事例2問/到達予想ライン4点)
出てきた用語はテキストに準じたものであり,新カリキュラムの出題基準から掲載された「首尾一貫感覚」の出題もありました。出題は,心理学の知識と生活を紐付けた内容になっていたと思います。
■社会学と社会システム(事例1問/到達予想ライン2.5点)
心理学と同様,出てきた用語はテキストに準じたものでしたが,NPO法人や福祉国家レジームの背景まで選択肢に盛り込まれるなど,暗記だけでは対応できない問題が多かった印象です。
■社会福祉の原理と政策(事例0問/到達予想ライン2点)
歴史の知識が多く問われた上に,国際的な視点,出題実績のない法律など,応用レベルの問題が並んだ印象です。9問あるため0点はなんとか回避できると思われていた科目ですが,今回の構成だと苦戦を強いられた受験生も多かったのではないでしょうか。問題を解いて解説を読むだけ,年号の丸暗記では解けない問題は,今後も出題されることが予測できます。対策講座の中では年表を用いて,国の背景をふまえて施策が講じられていることを解説しておりますが,今後も,丸暗記を脱却できるようなポイント解説を重点的に行なっていきたいと思います。
■社会保障(事例3問/到達予想ライン3点)
定番の選択肢もありながら,社会保険制度の細かい規定や改正時期まで出題されたことにより,やや難化した印象を受けます。
同試験においては西暦と和暦を併記することが一般的だと思われますが,問題28においては平成の表記しかないことで受験生自身が平成24年→2012年を計算しなければならず,共通科目の問題量(文章量)の多さを考えると受験生にとって負担だったのではないかなと思いました。
また問題29において,過去の出題実績から算出すると令和4年度のものが出題されると予想しておりましたが,令和7(2025)年7月29日に公表された「令和5年度社会保障費用統計」から出題されていることに驚きました。「最新の統計にも目を通しておきましょう」というアナウンスはしているものの,4月から5月頃に発刊している受験参考書で勉強した受験生が対応できない問題が出るというのは,納得のいかない点であります。(特に2021年から2023年あたりの社会保障費用統計は,新型コロナウイルス対策で数字の変動が大きかったため,出題年度が1年違うと理解しなければいけない内容も異なってきます)
■権利擁護を支える法制度(事例3問/到達予想ライン3点)
問題40の会話文の形式の出題は初めてでしたが,こういった出題形式は同科目に限らず,今後もあるかもしれないなと感じました。近年の同科目の問題と比較すると「全く検討がつかない」という問題はなく,今回は6割超え(4点以上)得点できた受験生もいたのではないでしょうか。
■地域福祉と包括的支援体制(事例4問/到達予想ライン3点)
過去問題を解くだけでは手応えを感じにくい科目ですが,今回は福祉行政よりさらに広い範囲での行政の知識が必要な問題が多く,難化した印象を受けました。
問題46は事例の解釈というよりも技能実習生に関する知識や動向を答えるもので,実質,一般問題ではないかなと思います。こういった問題の作り方によって「選択肢がほぼ絞れない事例問題」が出てきたことは,今後の試験対策の難しさを感じます。
福祉計画については選択肢の中に出てくることはありましたが,それに特化した問題が出題されなかったのも新しい傾向でした。
■障害者福祉(事例1問(+1問)/到達予想ライン2.5点)
障害者福祉は関連法が多いことが特徴で,6問構成では到底おさまりきらない学習ボリュームがありながら,「医療ケア児推進法」や「障害者アクセシビリティ・コミュニケーション施策推進法」といったところまで網羅するのは,受験対策としてかなり大変だなという印象を受けました。その一方で,障害者施策の展開について出題された問題53については,頻出の関連法をここまで深掘りして学ばなければならず,「深く」かつ「広い」内容の受験対策について,考えていかなければならないと感じております。
■刑事司法と福祉(事例3問/到達予想ライン2点)
他科目についても言えることですが,これまでの国試では「この単元のこの学習ができているから,3番を正解と選ぶことができる」という,出題の意図が明確な問題が重視されていたように思います。「タクソノミーⅡ型やⅢ型の問題を増やし,解きごたえのある問題構成にしていく」という試験委員会の方針があるとはいえ,問題の難化に伴い「これを正答に設定する意図は何だろう」という出題が増えたように感じます。
例えば問題58の4「罰金の金額は,1万円以上とされる。」はおそらく正答であると思われますが,例えば2と4で迷った受験生が「よし,4にしよう!」と思えるような知識の引き出しは,受験対策講座の中で培われるものなのかと問われると,そこは疑問です。
それ以外の問題については,旧カリキュラムの「更生保護制度」の頃からの出題傾向を汲んだものであったため,やはり定番の学習をきちんと積み重ね,大幅失点を防ぐことが近道といえそうです。
■ソーシャルワークの基盤と専門職(事例3問/到達予想ライン3点)
前回から共通科目として再編成されましたが,今回も精神保健福祉士に関する出題はありませんでした。「ソーシャルワークとは」「専門職とは」という視点はぶれていませんが,出典が一般的(テキストで網羅できている範囲)ではない問題も多く,昨年と同様,難しいという印象を受けました。
■ソーシャルワークの理論と方法(事例4問/到達予想ライン6点)
昨年のように他分野の制度理解が求められるような事例問題はなく,援助技術に特化した事例問題であったため,得点しやすい問題構成になったのではないかなと思います。
問題71(エコマップ),問題76(ターゲットシステム),問題77(ライフモデルにおける「適応」)などは選択肢の言い回しが難しく,答えを2つ選ぶことが難しい問題であった印象を受けました。
■社会福祉調査の基礎 (事例1問(+2問)/到達予想ライン3点)
難易度は例年通りといえそうですが,回答法と尺度がミックスして出題された問題81や,ロジックモデル,トライアンギュレーションといったテキスト未掲載の用語が選択肢に組み込まれている問題84については,答えの見当はついても自信をもって絞るのは難しかったのではないかなと思います。
今回の試験は,受験生から「時間が全然足りなかった」という声が多数あったため,最後に位置付けられている同科目にしっかり時間配分ができなかった影響も,合格基準点に影響する可能性があります。
【専門科目】
■高齢者福祉(事例3問/到達予想ライン3.5点)
「介護保険法(老人福祉法)に基づく市町村の役割」といった行政行為に関する出題がなかったため,難易度はやや易しかったのではないでしょうか。問題86は時期と数字を的確に判断するのが難しい問題であり,回答がばらけたのではないかなと思います。単独世帯の人口,要介護(要支援)認定数,同居の配偶者が介護をしている割合,高齢者の就業率,貯蓄現在高と,どれも高齢者の理解において欠かせない視点ではありますが,数字クイズのような出題形式はあくまで「難易度調整問題」と割り切り,汎用性のない数字の丸暗記を受験生に強いることがないよう,気をつけなければならないなと感じました。
■児童・家庭福祉(事例3問/到達予想ライン2点)
現場視点に基づく応用レベルの問題が多かったともいえますが,受験生をサポートする立場としては,児童福祉法,こども基本法,育児・介護休業法,児童手当法,「こどもの貧困解消対策推進法」など,2020年以降,大々的に進んでいる法整備や改正等に関する出題がなかったため,少し残念に思います。答えの検討がつけにくい問題が多かったため,過去問や模擬試験でしっかり学習した受験生であっても,苦戦したのではないでしょうか。
■貧困に対する支援(事例2問/到達予想ライン4点)
生活保護に関する細かい知識が問われなかったためか,問題及び選択肢の構成は,例年よりやや易しかった印象です。国試対策では定番の「直近の法改正」について,今回の試験でストレートに出題されたのは,問題99(生活困窮者自立支援法)ぐらいだったのではないでしょうか。
また,問題101のように「四国にあるA市」「関西のD市」といった具体的な地方名が登場する問題は珍しく,Cさんの生活に関するイメージを持ちやすかったのではないでしょうか。やはり「暗記で対応できるペーパーテスト」を脱して「生活の中で制度を活用していく専門職の役割」という切り替えを行っているのだなという印象を受けました。
■保健医療と福祉(事例2問/到達予想ライン3点)
問題103(悪性新生物の経年的な動向)や問題106(「臓器の移植に関する法律」)は聞き慣れない用語により難易度調整が行われた印象がありますが,その他は受験対策の知識を駆使して解く問題が並んでおり,この科目においては学習したことがきちんと点数に結びついたのではないかなと感じます。
■ソーシャルワークの基盤と専門職(事例3問/到達予想ライン4点)
言い回しが難しく読解力を問われ,「2つ選ぶ問題のあと1つが絞れない」という問題が多かった印象を受けました。医学概論のAEDに続き,問題112ではBiPAPが登場し,生活に関わる医療機器についても基礎知識を持っておく必要性が高まっているように感じます。
■ソーシャルワークの理論と方法(事例6問/到達予想ライン5.5点)
理論(用語)を実践に適用するイメージが湧くかどうかが鍵を握る問題構成でした。3分の2が事例問題でしたが,知識を活用せずなんとなく解こうとしても「ワーカーがクライエントの話を聞かずに制度の手続きを始める」「クライエント本人よりも家族の意向を優先する」等の定番のわかりやすい誤肢がなかったため,この科目は学習との向き合い方によって点差が開いたのではないかなと思います。
■福祉サービスの組織と経営(事例1問/到達予想ライン3点)
人名と理論を一致させるようなシンプルな問題は出ず,この科目でも「知識と実践が結びついているか」を重視した出題が多かったように思います。
法人に関するこれまでの出題割合は,社会福祉法人が7割,特定非営利活動法人が2割,その他の法人が1割というところだと思いますが,今回の問題124のような,それぞれの法人に関する知識を整理できる問題を,今後の試験対策に活かしていきたいと思います。
専門科目についても,最後に位置付けられた同科目に十分な時間を割けなかった受験生はいると思われます。合格基準点に少し影響が出ているかもしれません。
分析:福祉教育カレッジ講師 小畑 彩
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