化学薬品には,発火・爆発,有害危険や環境汚染の潜在危険性をもったものがある.われわれが化学実験等で化学薬品の潜在危険性に関する正しい知識をもたないで,誤った取扱いをすると,潜在危険性が顕在化し,爆発事故や火災事故,有害性物質による健康障害,環境汚染事故等を起こす.したがって,化学実験で用いる化学薬品については,廃棄物を含めて潜在危険性を把握し,安全な取扱いを心がけなければならない.
また,化学実験では,その実験の目的により種々の実験器具や実験装置を用いる.各実験器具や実験装置には種々の材料のものがあり,それらの特性は異なる.したがって,それらの特性と限界を把握して,適切な取扱いをする必要がある.
さらに,実験室では,種々の電気機器を用いる.それらの取扱いについて正しい知識をもって正しい取扱いをしなければ,感電事故や発火事故等を起こす.
化学実験において起こった事故例はこれらの潜在危険をよく物語っている.
ー方,化学実験を行うにあたっては,化学薬品,実験器具や実験装置,電気機器等の潜在危険に関する正しい知識をもって,正しい取扱いを行い,安全に努めるが,万が一の火災や爆発,薬品による健康障害等に備えての予防と被害拡大のための対応をあらかじめ考えておく必要がある.
また,地震の多いわが国においては,地震時の化学実験室での事故の発生に備えた対策を講じておくことも重要である.
化学実験の安全について記載した書籍は数多くあるが,大学や高専の学生,大学院生や教官,高校や中学あるいは小学校の理科の先生向けの実験や実験指導のための疑問点のチェックや学習用に化学実験の安全についてわかりやすく解説した書物はない.
そこで,本書はその要求に応えるため,化学実験を安全に行う際に重要な主要項目について,要点を整理し,各要点についてQ&A方式でわかりやすく解説するとともに,潜在危険を事故例で実感し,納得してもらうように努めた.
したがって,本書は,化学実験を安全に行う上で疑問のある項目の要点について調べ,適切な知識を得るのに用いることができる.また,化学実験を安全に行う上で必要な知識を網羅しているため,全章について一通り学習することにより,やさしい教科書としても活用できる.さらに,各章の末尾には,その章での安全のポイントを表すいくつかのことわざをあげており,楽しみながら学習できるよう配慮した.
本書においては,化学実験を安全に行う上で必要な主要項目を章ごとに整理した.まず,第1章では,実験を始める際の初心者の心得について記載した.第2章,第3章および第4章では,化学実験を行う際に用いる化学薬品,ガスおよび液化ガスの潜在危険性と安全な取扱いについて記載した.第5章では,実験終了後の廃棄物の安全な処理について記載した.第6章では実験に用いる実験器具・装置および操作の安全について,第7章では電気機器の安全な取扱いについて記載した.また,第8章では,最近,問題が発生しているVDT作業の安全,そして,第9章では,無人実験や無人運転の安全について記載した.さらに,実験時に起こる事故に備えて,第10章では防火と防爆について,第11章では,予防と救急について,第12章では,地震対策と警戒宣言について記載した.
本書の特徴が理解され,大学や高専の学生や大学院生が実験に望む際,あるいは大学や高専の教官,高校や中学あるいは小学校の理科の先生が実験を指導する際,学習あるいは疑問点のチェックに本書が有効に活用されることにより,化学実験の安全のお役に立てれば,それは筆者らの望外のよろこびとするところである.
最後に,本書の出版にあたり,企画,編集等において多大のご尽力をいただいた,みみずく舎/医学評論社の編集部諸氏に厚く御礼申し上げる.
2008年8月
田村 昌三
若倉 正英