化学プロセスの安全は運転,設備そして取り扱われる物質からの総合的な技術の基盤に立って成り立つものである.先の2012年6月に出版したプロセスの運転安全に引き続いて,このたび化学プロセスの設備安全を出版することで安全管理の基本事項の二本柱が揃ったことになる.現在,現場における安全管理の基本事項が伝承されにくく,また安全を確保していくための職場の風土と技術が少しずつ崩れかけつつある状態ではなかろうか.
このような中で運転安全とともに設備安全の基本を今一度振り返ることにより,新たな設備安全の出発点にしてもらいたいと考えている.
最近の化学産業では,重大な事故が連続して発生するなど現場の安全が揺らいでいるといえよう.このような事故は運転面,設備面,物質面に加えて,組織や現場での安全文化について様々な問題点を提起しているが,設備安全に係る事項では,点検や保全管理の問題だけでなく,安全設計や安全設備・安全機器などの安全のあり方の原点に返って考えなければならないことを示唆している.
そこで,化学産業や石油精製など化学プロセスの現場における設備面からの安全の基本項目について,項目を整理し,Q&A方式で判りやすく説明するとともに,項目ごとに実際の事故例を簡潔にまとめた.
まず,Ⅰでは設備の危険源とレイアウトの決め方,プロセス設計や安全設計について設計と安全に関する事項を述べた.続いてⅡでは反応器,撹拌器,熱交換器,配管,蒸留塔に関して単位操作機器と事故事例を,次にⅢでは用役,冷凍水,入出荷設備について,Ⅳではコンプレッサーやタービン,ポンプに関する事項を述べた.さらにⅤでは腐食防食,疲労,FRPなど設備の材質面に関して,Ⅵでは受電設備や電気ケーブルなどの電気設備,センサー類や調節弁等の計装設備を,Ⅶでは保全管理と工事の安全について,最終のⅧではプラントの安全対策に関する事項を述べた.
本書は若い人たちが読みやすく理解しやすいように工夫したつもりであり,化学プロセスの現場や指導者の方々にも広く理解され,現場の安全活動に有効に活用され,化学プロセスの安全に役立てていただければ,大いによろこびとするところである.
なお,本書は出版までかなりの年月を要したが,当初から,数多くの会社の方々の熱心なご協力を戴けたことに対し厚く感謝の意を表します.
おわりに,本書の出版にあたり企画,編集などにおいて多大なご尽力いただいた,みみずく舎/医学評論社の編集部諸氏に厚く御礼申し上げます.
2013年10月
岩田 稔
若倉 正英
清水 健康
井田 敦之