(社)日本分析化学会(Japan Society for Analytical Chemistry:JSAC)は2010年4月の理事会で分析士認証制度の創設を承認した.本制度は,JSACの創立60周年記念事業の一環として位置付けられたものであり,資格認証時代における個人の分析手技に対する知識とスキルを専門学会として公に認証するものである.分析士認証制度の第一の特徴は,受験資格をJSAC会員に限らず広く一般に開放していることである.各種分析手法は実験科学の基盤であり,産業界,教育界に遍く活用されている現状に鑑み,個人の客観的評価に基づく本認証制度の積極的な利用と普及が,各方面で分析技術の質的向上に直結すると期待されるからである.本制度の第二の特徴は,分析士資格を原則として初段から五段に分け,1年に1回の昇段試験で初段から一段ずつステップアップしていく仕組みにある.分析士制度の運営には二つの委員会が当たっており,「分析士認証委員会」は分析士資格の設定分野の選別,分析士の認証などを務めとし,「分析士認証専門委員会」は当該問題の作成・採点などの実務を行っている.JSAC分析士認証制度の第1弾に選定されたのが,現場で最も多くのユーザーがいると推定される液体クロマトグラフィー(LC)分野を対象とした分析士である.
本書は,第1回液体クロマトグラフィー分析士初段試験(2010年10月19日実施)の問題を再掲し,正答,解答分布を付けて解説したものである.この初段試験はJSACとしても初めての試みであることから,受験者もどのようなタイプの問題が出題されるか不安に思われると想像されたので,JSACホームページに正答と共に例題を6問掲載した.その際,問題の半数は化学・分析化学に関する基礎的知識,残りの半数がクロマトグラフィーやHPLCに関する基礎的知識と原理に関する理解を問うものであることも「ぶんせき」誌上での会告と併せて掲載した.試験問題は4択形式で50問(1問2点)が出題され,試験時間(2時間)内に解答をマークシートに記入するものであり,退室は試験開始後1時間以降とした.その結果,最高点は100点(1名),最低点は50点,平均点は82.1点であった.この試験により,約300名のLC分析士初段が日本に誕生した.
本書は,液体クロマトグラフィー分析士初段あるいはより上位の試験を受験される方々の実践的な参考書となることを意図しているが,一般の方々にもLCの実用書として有益と思われる.精読戴ければ,読者のLC力アップに少なからず貢献できるものと自負している.
最後に,本書の出版に便宜を図って戴いた(株)みみずく舎/(株)医学評論社編集部諸氏に感謝致します.
2011年6月26日
(社)日本分析化学会 分析士認証委員会委員長
同 液体クロマトグラフィー分析士認証専門委員会委員長
中村 洋