医師国家試験も第 100 回を迎えました。この第 100 回までの間には試験問題も日本の医療環境の変化に伴う要請に応えた変遷がありました。以前の試験問題では画像の多くは単独科としての放射線科問題の中での出題でした。しかし,今では患者一人一人は総体として診察するという前提のもとで,画像は全科の必修問題,臨床実地問題,一般問題という問題スタイルの中で扱われるようになりました。そして,画像は問題の中で重要な要素となり,出題数は逆に増加しています。最近ではこの傾向がさらに顕著となり,CT,MR,単純 X 線などの画像はそれぞれ毎年 20 題前後出題されています。2004 年には PET-CT が健康保険に採用されたために,今後はシンチグラムも出題の増加が予測されます。臨床画像のなかには血管造影や超音波などもあり,出題画像の半数を画像診断が占めるため読影力重視の傾向は今年も継続されていました。
国家試験の中で疾患や日本の医療事情を包括的に捉えようとする傾向を受けて,それぞれの医学部の講義や実習の形態にも変化が起きていることと思います。より現実に即応するために坐学の診療科別講義は縮小され,総合診断や系統実習の名の下にふんだんに画像に接する機会が増えています。画像に接する機会が増えるとともに今度は再び系統的に画像を扱うことへの要求が学生の間に増えてきています。本小冊子はこれらの時代の趨勢を捉えて改版したつもりです。最近臨床化された MDCT や PET-CT の画像も取り入れましたが,いまだ国家試験問題を作成する年齢層になじみの深い単純写真は多く残しています。多忙な受験生には画像と診断名を読み流してゆくことも可能でしょう。時間のゆとりがあれば本文に接していただければ良いでしょう。
放射線診療のなかで画像診断と一線を画しているのが放射線治療と放射線防護の領域でしょう。食生活の変化と高齢化は女性の乳癌と男性の前立腺癌の罹患数に急速な増加をもたらし,日本でもがん治療の中で放射線治療が表舞台に登場してきています。治癒率が高く,形態と機能の温存する治療を希望して,放射線治療患者の数は最近急勾配の右肩上がりとなっています。この時代の要請と放射線被曝への国民感情を受けて,放射線の治療と防護についての出題も毎回欠けることはありません。
今,多くの問題を一つずつ解決しながら,日本の医療は前に進んでいます。国家試験に合格するために得た基礎知識が臨床研修の場で診療の礎となって,患者と自らのために役立ってゆくことを期待しております。
2006 年 3 月
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