医師国家試験は,第95回から出題問題数が500題(試行問題を除く)となりました。そして,第112回からは400問となり,2日間で実施されます。合格基準については必修領域で絶対基準(得点率80%),一般および臨床実地領域では相対基準が導入され,医師国家試験合格率は全体で90%前後です。すなわち,従来考えられていた,約60%の得点率で合格できるという考え方は通用しないのです。いわば競争試験となっています。そのためには,基本的かつ重要事項についての問題を確実に正解することが求められるようになりました。医師が医療の場に第一歩を踏み出す際に最低限必要な基本的事項は,正確に理解しておく必要があるのです。
さて,この『サクセス ’18 公衆衛生』で扱うのは,公衆衛生学,衛生学,法医学,医療倫理といった社会医学関連の問題です。この領域の問題は,近年,相当数が出題されています。第109回では500問中73問(14.6%),第110回では500問中87問(17.4%),そして第111回では500問中89問(17.8%)と増加していました。これらの問題を詳細に分析すると,必修領域100問(C,F,H問題)のうち20.0%,一般問題200問の27.5%,臨床問題200問の7.0%が社会医学関連の出題でした。
さらに,生活習慣病や感染症の臨床問題のように他科と公衆衛生とクロスオーバーしているような設問も合わせると,すぐに100問くらいは数え上げることができます。「医学総論」の「保健医療論」と「予防と健康管理・増進」の国試出題割合を確認すると,旧ガイドラインで23%(200問中46問),平成30年版新ガイドラインでは30%(150問中45問)となっています。すなわち問題数の目安はほぼ変化がありません。500問中100問が,来年の第112回からは400問中100問となり,国試のじつに1/4が公衆衛生関連とも考えられます。したがって,これらの問題を正確に解答できるかどうかが,医師国家試験合格の鍵を握っているといっても過言ではないのです。
社会医学の内容は単に知識を詰め込むのではなく,基礎医学や臨床医学の知識を元に,広い視野で論理的思考を必要とします。本書では,重要ポイントをわかりやすく整理しましたので,皆さんの問題解決能力を高めるのに十分役立つと考えています。
本書を有効に活用して,重要事項を整理し,さらに過去に出題された国家試験問題を繰り返し解答してください。国家試験だけではありません。医療倫理を含めた社会医学的な内容は,医師になって,まず必要となる基本的事項であるため,一生涯の勉強として取り組んでください。また,本書は卒前教育のバイブルとして,共用試験(CBT)や学内の進級試験にも十分に活用できます。医師国家試験は医師として活動するための資格試験であり,万難を排して合格しなければなりません。この本が,皆さんの国家試験合格に役立つことを大いに期待しています。
平成29年6月
編集 一杉正仁
「サクセス'18 公衆衛生」では,各問題がどれくらい合否に影響するかを分析した「V 指数」を公表しています。それについて解説しておきましょう。
多選択肢問題の良否を決めるのに,一般的に
識別指数という数値が使われています。識別指数を求めるには,まず全受験者の成績順に4つのグループに分けます。次いで,ある問題について,
成績上位者 (上位1/4のグループ) の正答率に基づく指数 |
| − |
成績下位者 (下位1/4のグループ) の正答率に基づく指数 |
|
の差を求めます。成績上位者の方が正答率が高いのが当然ですから,この数値が0付近の問題は学力差を反映しない問題,マイナスの問題は成績下位者の方が出来が良いことになりますので「何かおかしい」問題という判断になるでしょう。識別指数は高ければ高いほどよいわけで,最高値は1.0です。実際に1になることはまずありません。0.15から0.2を超えると,いわゆる良問とされます。このように識別指数は合理的な問題の判定基準ですが,成績中位者のデータは生かされておらず,アバウトな指標ではあります。
我々も長年,識別指数をもとに問題を分析してきました。しかし,それだけでは,どうもこぼれてしまう情報があることも実感していました。例えば,同じような正答率,識別指数の問題でも,合否に与える影響には差があるような印象を持っていました。そこで,数年前から,もう少し細かく分析する作業を進めてきており,その作業結果を公表しています。
この識別指数をさらに精密にしたのが
V指数(統計学的には点双列相関係数)です。コンピューターによる解析で,全体の成績と個々の問題の関係を綿密に分析した数値です。V指数が0.2を超える問題は合否を分ける問題と考えてよいでしょう。特に0.3を超える問題は重要です。
さらに,我々は成績順に5つのグループに分け(合格者の成績が良い順にLev4〜Lev1と不合格者),各グループの正答率を検討するという作業を進めてきました。すると,同じくらいのV指数の問題でも,例えば
(1) 最上位(Lev4)のグループはそこそこできているが,次のグループ(Lev3)から正答率が急降下する
(2) 上位〜中下位(Lev4〜1)のグループまではそこそこできているが,不合格者(Fail)のグループで正答率が急降下する
というタイプ(もちろん他のタイプもあります)に分かれることがわかりました(グラフ参照)。
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(104G-42,正解a)
(1)最上位(Lev4)のグループは正答率が高いが次のグループ(Lev3)から正答率が急降下する問題 | |
(104B-13,正解b)
(2)不合格者(Fail)のグループで正答率が急降下する問題 |
(1)は
やや難しい問題ということになります。安心して合格するためにはもちろんマスターすべき問題ですが,
基本が固まってからもう一度検討すると題意がよくわかり,学習効果が高いでしょう。こういう問題には,最初勉強したときには付箋でもつけておき,学習が完成してきた段階で再検討するとよいでしょう。他方,
(2)は
不合格になる層に共通した弱点で,こういうタイプの問題は基本を固める時期から克服しておく必要があります。
また,
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(100F-9,正解a) |
このようなX字型のグラフを示す問題では,成績上位者が選びやすい選択肢と,成績下位者が選びやすい選択肢が全く異っています。このような問題でいつも(──)でなく(
━━)を選べるようになれば
成績はグンと上昇するはずです。
このように,データを生かすことで学習の優先度をつけることができ,効率よく受験準備を進めることができます。
データ解析を始めた第100回国試以降の
①V指数が0.3を超える問題 ②特徴的な傾向を示す問題 ③採点除外問題 |
についてはグラフで成績を示しました。このグラフを見れば受験生の傾向が一目でわかります。このグラフをフルに活用して無駄なく受験準備を進めてください。