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医療は負けない! ─ モンスターペイシェントとどう向き合うか

医療の現場で大きな問題となっているクレイマー患者=“モンスターペイシェント”。 その実態と特徴を解説し,対策と予防法を提示!

医療は負けない! ─ モンスターペイシェントとどう向き合うか

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   紙書籍 
寺野  彰(獨協医科大学理事長・名誉学長/弁護士)著
角藤和久(弁護士)著
四六判,214頁,1色刷
2011/12/08発行
¥1,430(本体¥1,300+税¥130)
ISBN 978-4-86399-113-2
モンスターペイシェントの行動パターンと対応のポイントを,豊富なケーススタディで具体的に解説!
不当な要求を繰り返し,脅迫や暴力まで使う悪質な患者とどう向き合ったらいいのか?
大学病院長・学長を歴任したベテラン医師兼弁護士と医療訴訟に詳しいカリスマ弁護士がタッグを組み,効果的な“モンスター退治”法を伝授!
みんなが「最高の医療」を受けられる環境を!

はじめに
 「このやろう。針を三回も刺しやがって!どうしてくれるんだ!」
 「すみません。血管が細かったものですから。」
 少々凄みのきいた患者さんが,若い看護師相手に怒鳴り散らし,彼女は泣き顔で平謝りしている。患者さんが遠巻きに恐ろしげにこの光景を見ている。
 みなさんは,病院やクリニックの外来や病棟でこのような光景に出会ったことはないでしょうか。程度の差こそあれ,多くの患者さんが経験しておられるのではないかと思います。
 今世紀に入って,医療は大きく変貌してきています。低医療費政策がもたらした「地域医療崩壊」は深刻な社会問題となり,世界的に高く評価されてきたわが国の医療が危機にさらされています。頻発した医療事故をはじめとする医療安全問題も深刻です。医師不足・看護師不足もこのような医療崩壊を加速させています。
 このようにわが国の医療の危機的状態には様々の原因がみられますが,そのうちの重要なものの一つに冒頭のいわゆる「モンスターペイシェント」問題があります。医療はいうまでもなく患者側と医療側の良好な関係の上に成り立っているのですが,一部とはいえこの患者─医療者関係を「ぶち壊して」しまう人々がいます。その結果,大多数の患者さんが迷惑を受け,医師や看護師をはじめとする医療者を萎縮させたり,辞めさせたりすることになり,医療崩壊はさらに進んでいくことになります。
 本書は,このような状況を憂え,いわゆる「モンスターペイシェント」とはどのようなものか,その出現の原因は何かなどを解説しました。さらにこれらの人々にどのように対処すべきか,個人のみならず病院・クリニックが組織としていかに対応すべきかを実例をあげながら具体的に提案しました。
 本書を企画するに当たり,医療現場の状況と法的判断の両者が必須と考え,医師と弁護士の共著とすることにしました。二人でこの問題の本質を夜中まで徹底的に議論し,いかにしてこのような「モンスターペイシェント」を排除し,国民のための医療を回復できるかを追求しました。本書の巻末に「対談」を掲載しましたが,そこにポイントが示されていると思います。読者のみなさんが読みやすいようにと,多くの図表,さらにイラストを挿入しました。参考になる文書も加えました。
 重要なことは,一部の人々の心ない行為によって国民全体の医療が破壊されないようにすること,病院・クリニックなどが医師・看護師などの個人の責任とせず組織として対応すること,そして患者さんと医療者のより良好な関係を構築すること,結果として,進行する「医療崩壊」を食い止め,わが国の医療を世界に冠たるものにすることなのです。私たちは,その実現の一助となることを祈って本書を書き上げました。医師・看護師をはじめとする医療者のみでなく,心ある国民のみなさんのお役に立つものと考えています。
 最後に,ご協力いただいた獨協医科大学病院医療安全推進課のみなさん,最後まで粘り強く本書発刊にこぎつけていただいた医学評論社のみなさんに感謝申し上げます。
  2011年11月

寺野  彰  
角藤和久  

目次
第1章 モンスターペイシェントとは何か?

 モンスターを生み出した背景
  病院に対する悪質クレーマー
  モンスターペアレントとの共通点
  モンスターペイシェントの誕生
  医療崩壊とモンスターペイシェント
  外国にもいるモンスターペイシェント

 モンスターペイシェントのふるまい
  モンスターペイシェントの見分け方
   [ケース1 患者が「見放された」と思うとき]
   [ケース2 入院患者の横暴]

 モンスターペイシェントの実態
  新聞報道にみる憂慮すべき現実
  病院の半数以上が院内暴力を経験している
  大学病院でも悪質クレーマーが続発
  狙われる看護師

 モンスターペイシェントのタイプ
  性格的問題クレーマー
  精神的問題クレーマー
  常習的悪質クレーマー
  反社会的悪質クレーマー
   [ケース3 些細なことで頻繁に受診し,暴言を吐き治療を妨害]
   [ケース4 予約日以外に来院し,しかも優先的な診療を求める]
   [ケース5 判決確定後の業務妨害]

 モンスターペイシェントの行動原理
  モンスターペイシェントによる「院内暴力」
  悪質クレームのターゲットになるのは誰か?
  モンスターペイシェントは患者本人だけではない
   [ケース6 当初はもっともな質問が,たび重なる質問になり……]
   [ケース7 入院している母親の看護について,昼夜を問わず怒鳴る]
   [ケース8 救急患者が退院後,その父親が乗り込んできた]
  悪質クレームの様々なパターン
  被害者のリスク要因
   [ケース9 暴力団ふうの者による建造物侵入,業務妨害]
   [ケース10 受付時間内の暴力事件―モンスターペイシェントの極限形態]
   [ケース11 時間外の暴力事件]
   [ケース12 女性医師への暴言]
   [ケース13 女性職員への暴言]
   [ケース14 インターネットでの中傷]
  院内暴力の影響

 医師の診療義務につけこむモンスターペイシェント
  診療義務に違反すると罰せられる!?
  診療義務の規定は必要か?
  診療を拒む上での「正当な事由」とは?
   [ケース15 出産費用不払いのまま退院し,行方がわからない]
   [ケース16 急性アルコール中毒の事実を認めず,費用を払わず退院]
   [ケース17 下着泥棒が疑われた入院患者に退院を求めたところ……]
   [ケース18−1 診察まで待たされたから支払わないと言う]
   [ケース18−2 前回支払いを拒否した患者が再び来院]

第2章 モンスターペイシェントの対策と予防

 病院の断固たる姿勢を示す
  迷惑行為を列挙して掲示する
  診療義務を盾に取られてもひるまない

 警察への通報・告発を躊躇しない
  警察に通報する
  報復を恐れず要求に屈しない

 弁護士は心強いパートナー
  クレーマー対策に強い弁護士を選ぶ
  弁護士費用は心配するほどではない
  弁護士がいること自体が相手へのプレッシャー
   [ケース19 顧問弁護士との協力]

 メディアの協力が望まれる

 全員が一丸となって対応する
  公共の場所である病院を守るのはみんなの義務
  危機管理対策を充実させる
  個人ではなく病院全体として対応する
  病院の内部統制
  関係各所との連携を深める
  一人で行動するな,念書は書くな
  国民全員とともに

対談 モンスターペイシェントとどう向き合うか

 付:病院暴言・暴力マニュアル

あとがき
 七時間の大手術が終わった。
 「手術は,予定通り終りましたよ。」
 「あっ,そうですか。で,おいくら位するんですか。」
 「………」
 ある著名な脳神経外科医は,驚くほどの手術件数をこなし,極めて高度な脳の手術に数多くの実績を残している。そのモチベーションは,一人一人の患者,家族の心からの笑顔,感謝の念に支えられている。ところが,最近は,手術はうまくいって当たり前,何か問題が残ると,すぐに医療ミスではないかといった感覚で対応する患者,家族が確実に増えているような印象があると述べている。冒頭のやりとりは,それを象徴するやりとりである。
 本書は,医師ら医療者と患者,家族との相互のあるべき,より良い信頼関係を模索する中で生まれたものである。決して両者を対立する構造とみるものではない。
 病気の克服は,患者自身が,自らの病気に負けずに必ず治ってみせるという前向きの気持ち,それも,信頼するこの医師の指導に従い,その治療のもとで治るぞという気概が根底に求められる。それに対応して,医師も,その患者の信頼に応えて,常に十分な説明を怠らず,期待されるレベルの治療をつくす。そのようなあるべき両者の関係が求められている。
 その関係の実現に大きく立ちはだかってきた要因の一つが,モンスターペイシェントと言ってよい。
 一部の患者,家族が,余りに自己中心的になり,その主張を強引に貫くとき,他の多くの患者らに円滑な診療を受けられない事態を招き,また想像以上の困惑と恐怖心を与える結果となることを本書を通じて知って頂けたのではないかと思う。
 本書で指摘した通り,現実には,一部にモンスターペイシェントは間違いなく存在する。本書は,大多数の患者,家族のために,また多忙を極める医療者のために,冷静に淡々と対応するノウハウを提供し,被害の拡大を防ぎ,すみやかに円滑な医療体制を回復することを祈念して生まれたものであって,大いに活用して頂ければと思う。

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