多くの若い臨床医には,いつまでも手放したくない,医学生時代の手垢が付くまで使ったテキストというものがあります。それらの特徴は,単に学習事項の羅列ではなく,優先度と重要度が意識された上で,理解すべき事項が基礎的項目から応用項目に至るまで有機的かつコンパクトにまとめられているという点ではないでしょうか。
近年,医師国家試験もbrush-upされ,従来の暗記型よりも,実地で求められる問題解決型の洗練された出題が多くなっています。したがって医師国家試験を目指す医学生にとってまさに必須のテキストは,前述のようなものではないかと思います。
本書は,平成5(1993)年の第1版発刊以来,多くの医学生によって,初期研修医になってから,さらに,内科,外科の研修においてまでも愛用されています。
本書の特徴は,神経はなじみにくい,不得意だという方にとっても,神経診断学,神経画像診断学,そして治療までをもわかりやすく一冊で完結できるようにまとめてあるという点にあります。また,今回の改訂では,各分野で学生・研修医指導に情熱みなぎる先生方に,最新の知見を折り込みつつ,医学生として,研修医として理解しておくべきポイントをわかりやすくまとめていただきました。もちろん,医師国家試験にも対応できています。
頭痛,めまい,嘔吐などは卑近な症状でありますが,これらの症状に対して鑑別を要する疾患は膨大です。一方,脳神経外科学の対象となる脳卒中,脳腫瘍,頭部外傷なども同様な症状で発症します。また,これらの疾患は適正な診断治療がなされないときわめて重篤な結果に陥ることも少なくありません。
脳神経外科は特別な科目ではありません。患者さんを診るときには必ず必要となる知識の一つです。読者の皆さんが医学生の時代に本書を手に取ることにより,脳神経外科学の根幹をなす神経学から外科治療までの実際に役に立つ知識を基本から学び,そしてそれが医師としての幅広い臨床能力に結びつくことを願ってやみません。
最後に,ご多忙の中ご執筆いただいた先生方,ならびに編集にお力添えをいただいた医学評論社編集部に深く感謝申し上げます。
平成23年9月吉日
三木 保